天気は晴れ。最高気温は27度ほどでかなり暖かい。ただ、日本のような湿気は少なく、からっとしていて気持ちがいい。
今回の北イタリア旅行は、ミラノから入り、フィレンツェ、ボローニャへと足を延ばし、最後にミラノに滞在する。観光名所を効率よく回ることよりも、アパートメントに泊まり、スーパーで食材を買い、少しだけ現地で暮らす感覚を確かめてみたいと思っていた。
空港バスでミラノ中央駅へ
空港からは高速バスでミラノ中央駅へ向かった。
空港と中央駅を結ぶバスは複数の会社が運行している。私はGoogleマップに表示された会社のチケットを購入したが、最初の便は満員で乗ることができず、20分ほど待って次の便に乗車した。
すぐそばでは別会社のバスが空いたまま出発していった。会社ごとに列が分かれているため、急いでいるときは、最初から複数の乗り場を見比べた方がよさそうだ。
旅は、こうした小さな読み違いから始まる。
美しさと荒さが同居するミラノ
バスの車窓からミラノの街を眺める。
市街地には昔の石造りの建物が残り、今も使われ続けている。古いものを取り壊して新しくするのではなく、時間を重ねた建物の中で生活が続いている。その厚みは、ヨーロッパの街を歩く魅力の一つだと思う。
一方で、最初に気になったのは落書きの多さだった。
ガレージやシャッターだけでなく、建物の壁にも当たり前のように文字が重なっている。歴史的な街並みと、少し荒れた壁面が同時に目に入る。
美しいけれど、整いすぎてはいない。これがミラノの第一印象になった。
最初の食事は、ピザとエスプレッソ
ミラノ中央駅には、列車の出発時刻より2時間ほど早く着いた。
少し街を歩き、駅のスタンドでイタリア最初の食事をとる。マルゲリータとエスプレッソで、合わせて6.4ユーロだった。
もちろん駅の気軽な店であり、高級な食事ではない。それでも、円安の時期に来たことを考えると、日本と大きく変わらない感覚で食べられたのは意外だった。
ピザは正直に言えば普通だった。印象に残ったのは、むしろエスプレッソだ。
小さなカップに、驚くほど濃いコーヒーが少しだけ入っている。周りの人たちは、それをさっと飲み、カップを置いて去っていく。日本のカフェのように、席でゆっくり過ごす飲み方とは違う。
江戸の蕎麦のような文化なのだろうか。
さっと寄り、さっと飲む。その短さまで含めて、一つの様式に見えた。
高速鉄道でフィレンツェへ
時間が来たので、ミラノ中央駅からフィレンツェへ向かう。
イタリアの高速鉄道には、TrenitaliaとItaloという二つの選択肢がある。今回は本数の多さからTrenitaliaを選んだ。
旅程が固まっているなら、早めにオンラインで購入する方が安い。ただし、到着日に飛行機から列車へ乗り継ぐ場合は、遅延も考えて変更条件を確認しておいた方がいい。少し高くても変更できるチケットを選ぶことには、十分な意味がある。
列車がミラノを離れると、平らな農地が続いた。ロンバルディアからトスカーナへ向かう車窓は、どこか新潟の越後平野を思い出させる。
遠く離れた土地に、故郷と似た地形を見つける。こういう瞬間があると、外国が少しだけ近く感じられる。
古い建物とデジタルキー
フィレンツェに到着すると、ミラノとは街の表情がかなり違っていた。
駅の周辺から街並みが整い、歩く人の数も多い。アジアからの観光客も目立つ。ミラノが大都市への入口だとすれば、フィレンツェは駅を出た瞬間から「見られるための都市」として密度が高い。
今回の宿は、ホテルではなくアパートメントにした。入口は5階にあり、室内はメゾネット。6階の寝室からはアルノ川を一望できる。
驚いたのは、受付に人がいないことだった。
事前に送られてきたデジタルキーで建物と部屋に入り、室内に置かれた鍵を受け取る。誰とも会わずにチェックインが完了する。
何百年も使われてきたような古い建物に、完全オンラインの仕組みが入っている。エレベーターは自分で扉を開閉する古い形式で、少し怖い。しかし、その古さも含めてフィレンツェらしい。
古い街が、必ずしも古い方法だけで動いているわけではない。その組み合わせが面白かった。

梨のラビオリと、夕暮れの街
荷物を置き、予約していたTrattoria 4 Leoniへ向かった。旅先の食事処はGoogle mapなどの口コミが頼りだ。
店の看板料理だという梨のラビオリを注文し、すすめてもらった白ワインを合わせる。最後はチョコレートソースのチーズケーキにした。
料理の味は全体に濃い。それでも、ラビオリの甘さと塩気、ワイン、デザートまでの流れがきれいで、旅の最初の夕食としてはとても満足できるものだった。

タオル一枚を探して歩く
夕食後、部屋で使うタオルを買おうとした。
ところが、近くのスーパーには置いていない。何軒か店を回り、ようやく一軒、タオルを扱う店を見つけた。
日本なら、コンビニや量販店へ行けばすぐに手に入る。フィレンツェの中心部では、日用品一つを買うにも、どこに何があるのかを知る必要がある。
不便ではある。
けれども、タオルを探して歩いたことで、観光客向けの店と、生活に必要な店の違いが少し見えた。何時まで店が開いているのか。スーパーには何があり、何がないのか。街の中で日常品はどこに置かれているのか。
名所を巡るだけでは見えにくい、生活の輪郭である。
旅の初日は、暮らしの物差しを揺らす
この日は、ミラノに着き、駅でピザとエスプレッソを口にし、高速鉄道でフィレンツェへ移動した。アルノ川を望むアパートに入り、古いエレベーターに緊張し、梨のラビオリを食べ、最後はタオルを探して街を歩いた。
有名な観光名所をたくさん見たわけではない。それでも、十分に濃い一日だった。
街の美しさだけでなく、落書きも見る。食事の価格に驚き、コーヒーの飲み方に戸惑う。デジタルキーに感心し、日用品を買う難しさから日本の便利さを思い出す。
旅の初日は、その国の魅力だけでなく、自分が普段どのような環境で暮らしているかも教えてくれる。
こうした小さな不便や戸惑いこそ、「少し暮らしてみる旅」の入口なのだと思う。
次回は、フィレンツェから高速鉄道でボローニャへ向かう。食の都で感じたのは、「この街なら一年住んでも飽きないかもしれない」という予感だった。
